遺言書がない場合の相続手続きの流れと注意点:円満な「遺産分割」の進め方

弁護士の藤本英子です。

「遺言書」があれば、基本的にその内容に従って相続手続きを進められますが、現実には遺言書がないケースが多数です。遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰がどの財産を相続するかを決めなければなりません。

この遺産分割協議こそが、相続争いの主な発生源となります。

本記事では、遺言書がない場合の相続手続きの流れと、円満な解決のために特に注意すべき点を、弁護士の視点から解説します。


ステップ1:相続人(法定相続人)の確定

まず、亡くなった方(被相続人)の財産を誰が相続する権利があるのか、法定相続人を確定します。

🔹 法定相続人の範囲と順位

法定相続人となるのは、常に配偶者と、以下の順位の血族です。

  1. 第一順位:子(子が亡くなっている場合は孫などの直系卑属)
  2. 第二順位:直系尊属(父母、祖父母など)
  3. 第三順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっている場合は甥・姪)

第二順位以降の人が相続人となるのは、その前の順位の人が全員いない場合です。

【必要書類と注意点】

  • 戸籍謄本等の収集: 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本(除籍謄本、改製原戸籍などを含む)を取得し、漏れなく相続人を特定する必要があります。
  • トラブルになりやすい点: 前妻(前夫)との間の子や、認知した非嫡出子がいる場合、他の相続人がその存在を知らず、後からトラブルになることがあります。戸籍を辿って見落としがないか厳密に確認することが重要です。

ステップ2:相続財産(遺産)の調査と確定

次に、亡くなった方が所有していたすべての財産と負債を調査し、一覧にします。

🔹 調査対象となる財産

  • プラスの財産: 預貯金、不動産(土地・建物)、株式・投資信託、生命保険の解約返戻金、車、骨董品など
  • マイナスの財産(債務): 借金、未払いの税金・医療費、住宅ローンなど

【注意点】

  • 使途不明金への疑義: 亡くなる直前に特定の口座から多額の現金が引き出されていた場合、「これは遺産ではないのか?」と他の相続人から疑義が出ることがあります。預貯金の入出金履歴を詳細に確認することが、後の紛争を防ぎます。
  • 「負の遺産」への対応: 借金などマイナスの財産が多い場合は、相続開始を知った時から3ヶ月以内相続放棄の手続きを家庭裁判所で行う必要があります。この期限を過ぎると原則、すべての債務を背負うことになります。

ステップ3:遺産分割協議の実施と法定相続分

相続人全員で、どの財産を誰が相続するか話し合い(遺産分割協議)を行います。

🔹 法定相続分とは

遺言書がない場合、民法が定める「法定相続分」が相続割合の目安となります。

相続人のパターン配偶者直系尊属(親など)兄弟姉妹
配偶者と子1/21/2--
配偶者と直系尊属2/3-1/3-
配偶者と兄弟姉妹3/4--1/4

あくまで目安であり、必ずこの通りに分ける必要はありません。

🔹 協議で考慮すべき「修正要素」

円満な協議のためには、法定相続分だけでなく、以下の修正要素を考慮することが重要です。

  • 特別受益: 一部の相続人が、生前に被相続人から多額の贈与や遺贈を受けていた場合、その利益を遺産に持ち戻して(加算して)計算し直します。
  • 寄与分: 特定の相続人が、被相続人の事業に無償で貢献したり、療養看護に特別な尽力をしたりして財産維持・増加に貢献した場合、その貢献度に応じて法定相続分以上の財産を取得できる可能性があります。

【トラブルになりやすい点】

  • 不動産の評価: 不動産の評価額について、相続人によって主張が異なり、協議が進まなくなるケースが多発します。複数の不動産鑑定士に依頼するなど、客観的な評価で合意形成を図る努力が必要です。
  • 交渉の長期化: 一人でも反対する相続人がいれば分割はできません。意見が対立し、感情的な対立が深まると、解決が家庭裁判所での調停・審判に移行し、解決までの時間が長期化します。

ステップ4:遺産分割協議書の作成と手続き

協議がまとまったら、その内容を明確に記した遺産分割協議書を、相続人全員の実印で作成し、印鑑証明書を添付します。

この協議書があれば、預貯金の解約、不動産の名義変更(相続登記)など、すべての相続手続きが可能になります。

🔹 相続登記の注意点(法改正)

不動産については、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。正当な理由なく放置すると過料の対象となるため、遺産分割協議がまとまり次第、速やかに手続きを行う必要があります。


まとめ:弁護士の役割

遺言書がない相続手続きは、「相続人の特定」「財産の評価」「公平な分割案の提示」という、すべてにおいて専門知識と交渉技術が求められます。

当事務所では、感情的な対立が生じる前に法的な観点から冷静に協議をサポートし、万が一対立してしまった場合も、交渉や調停代理を通じてお客様の権利を守り、円満かつ早期の解決を目指します。

相続手続きでお困りの際は、お気軽にご相談ください。