【2026年民法改正】①新しい遺言の形「保管証書遺言」とは?
「自分が亡くなった後、家族が揉めないように遺言書を残しておきたい」
そう考えたとき、これまでは主に「自筆証書遺言(手書き)」か「公正証書遺言(公証役場で作成)」の2つが主な選択肢でした。
しかし、2026年(令和8年)6月に成立した改正民法により、新しい第4の遺言方式として「保管証書遺言」が創設されます。
パソコンで作成でき、オンライン手続きやウェブ会議も活用できるなど、従来の遺言制度のデメリットを解消する画期的な仕組みとして期待されています。
本記事では、この注目の「保管証書遺言」の概要やメリット、そして実務上の注意点(落とし穴)について詳しく解説します。
※本稿執筆時点では未施行です(公布から3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます)。
1. 保管証書遺言とは?(2026年改正民法による位置づけ)
2026年(令和8年)6月17日、「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)および関係法律が成立し、同月24日に公布されました。
これまで、民法が定める「普通の方式」による遺言は、以下の3種類でした。
- 自筆証書遺言(自分で手書きする)
- 公正証書遺言(公証人に作成してもらう)
- 秘密証書遺言(内容を秘密にしたまま存在のみ証明してもらう)
今回の改正(改正民法967条)により、これらに「保管証書遺言」が加わり、4つ目の選択肢として位置づけられることになります。
デジタル化が進む現代社会に合わせ、電子データ等で作成し、法務局(遺言書保管所)で厳重に保管する仕組みが整えられたのです。
2. 保管証書遺言の成立要件と「保管」の意味
保管証書遺言を有効に成立させるためには、法律で定められた方式に従う必要があります。
成立の要件
改正民法968条の2第1項によると、以下の要件を満たす必要があります。
- 作成・署名:遺言者が、遺言の全文(電磁的記録の場合は全文および氏名)が記載・記録された証書に署名、またはこれに代わる措置(法務省令で定めるもの)を講じること。
- 口述:遺言者が、遺言書保管官の前で、その証書に記載・記録された遺言の全文を「口述」すること。 (※口がきけない方の場合は、通訳人の通訳による申述、または自書によって口述に代えることができます。)
「法務局での保管」が効力の要件
保管証書遺言の最大の特長は、「法務局での保管」自体が遺言の効力発生要件になっている点です(改正民法968条の2第2項)。
つまり、単に書類やデータを作成・口述しただけでは不十分で、法務局(遺言書保管法)の定めに従って適切に保管されて初めて、法律上の遺言としての効力を持ちます。
3. 保管証書遺言の主なメリット
保管証書遺言は、手軽さと安全性を両立させた非常に使い勝手の良い制度です。法務省の公表資料などから、次のような大きなメリットが挙げられます。
① パソコン作成・オンライン申請・ウェブ会議に対応
従来の自筆証書遺言は、全文を手書きする必要があり(財産目録等を除く)、高齢の方や長文を書く方にとっては大きな負担でした。
保管証書遺言ではパソコン等での作成が可能となります。
また、オンラインによる保管申請や、遺言書保管官が相当と認めるときはウェブ会議を利用した手続きも可能になります。
② なりすまし・無効・改ざんの防止
遺言書保管官による厳格な「本人確認」が行われるため、第三者によるなりすましを防止できます。
さらに、遺言者本人が全文を口述するプロセスを踏むため、「本人の真意に基づかない遺言」が作られてしまうリスクを極めて低く抑えられます。
もちろん、法務局で保管されるため紛失や変造・破棄の心配もありません。
③ 相続開始後の「検認」が不要・スムーズな相続へ
通常、自筆証書遺言(自宅保管)の場合は、相続発生後に家庭裁判所で「検認」という手続きを経る必要があります。
しかし、保管証書遺言は検認手続きが不要です。
さらに、遺言者があらかじめ指定した者に対して「遺言が存在すること」を通知する仕組みも設けられるため、相続開始後の手続き(相続登記や預貯金の解約など)が非常に円滑に進みます。
4. 【実務上の落とし穴】保管申請の撤回=遺言そのものの撤回に!
このように非常に便利な保管証書遺言ですが、ご自身で手続きを進める際に絶対に知っておくべき注意点があります。
それは、「保管の申請を撤回すると、遺言そのものを撤回したとみなされる」という点です(改正遺言書保管法14条6項)。
例えば、次のような勘違いが起こり得ます。
✕「一度法務局から手元に引き戻して、自宅で保管し直そう」
✕「法務局の保管はやめて、やっぱり手元に置いておこう」
保管証書遺言は「法務局に保管されていること」が効力要件であるため、「保管だけをやめて、遺言の内容はそのまま有効に残す」ということはできません。
保管申請を取り下げた時点で、その遺言書は法律上「無効(撤回されたもの)」として扱われてしまいます。
遺言内容の修正や保管場所の変更などを検討される際は、慎重な手続きが必要となります。
まとめ:あなたにとって最適な遺言方式を選ぶために
2026年6月成立の民法改正によって誕生する「保管証書遺言」は、パソコン作成やオンライン手続きを活用できる画期的な制度です。
しかし、制度が便利になる一方で、成立要件や「保管撤回=遺言撤回」といった法的な注意点を正しく理解しておかなければ、意図せず遺言が無効になってしまうリスクもあります。
また、「どのような遺言方式を選ぶべきか(公正証書遺言が良いのか、保管証書遺言が良いのか)」や「希望通りの法的効力を持たせるための文面づくり」については、個別の財産状況やご家族のご事情に応じた高度な判断が必要です。
当事務所では、最新の改正民法に基づき、お客様一人ひとりに最適な相続・遺言のご提案を行っております。
「残されるご家族のために確実な遺言書を作りたい」「新しい制度について詳しく相談したい」という方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。

